【ご挨拶】

最初にお伝えしておきますが、私は女性です。
地方雑誌の編集の仕事をしていますが、ご縁があり風俗店舗のキャストの皆さんにお話を伺える機会がありました。
デリヘルを舞台に風俗嬢たちを取材させてもらいましたが、その世界は決して輝かしいものだけではありません。
色々な苦労や泣き笑い・・・。風俗嬢としてのプライドや、風俗嬢だからこその傷や痛みを抱えている女性たちがいたことに、私自身深く同情しましたし共感もいたしました。
同性ならではのショックを受ける内容や、賛同する考え方・・・そして個々の女性の生き方を目の当たりにし、「なんて自分は小さな世界でぬくぬくと生きてきたのだろう」と改める部分も多々。
しかし、風俗という性質上、私は自社の取材班から戦力外通告を受けてしまい、現場を後にすることを余儀なくされました。
そして次の月、自社から発行される記事を読んで驚愕したのです。

その号には、本来『デリヘル嬢の本質に迫る!』というキャッチフレーズのもと、キャストたちの紹介とともに、彼女たちの本来の人間性に迫ったり、私生活を少しだけ教えてもらったり・・・という企画だったのです。
サックリ言うと、「デリヘル嬢の素顔を見せてください」と。
しかし、発行された・・・いえ。発行許可が出た原稿は、私が取材した内容とかけ離れたものでした。

「(取材班)○○店の△△△ちゃんの好きな映画は?」
「(△△△嬢)ジブリが好きで仕事が終わったらよく観ています♪ネコバス可愛よね^^」
「(取材班)▲▲店の●●●ちゃんのオススメコスメ情報教えてください!」
「(●●●嬢)私たちは肌が命!お風呂上りにオススメなのは×××化粧品の全身オイルです♪疲れた体に心地良いアロマの香りに癒されています」

こんな浮ついた記事ばかり。
いえ、このような記事でも本人が言っていればいいのですが、残念ながら私の聞いた話(取材内容)とは、まるで違う・・・。
私はイタズラに彼女たちの心の闇に触れてしまったことを申し訳なく思うとともに、私個人として、彼女たちの素顔に迫った本物の『デリヘル取材記事』を公開することを決めました。
そして、形にもならなかった私の記事。
『(仮タイトル)デリ嬢110番』を、この場で公開します。
「さすがにコレを雑誌で取り上げるのは問題だ」と判断し、原稿に書かなかった内容も、全て・・・私を信頼し話をしてくれた彼女たちの気持ちを配慮し、書き連ねていきたいと思います。
そして、これからも一人の女性として彼女たちを応援します。
(一部ショッキングな表現があります。また個人情報特定を防ぐため店名・名前ともに架空です。キャストの情報によっては若干のフェイクがあります。ご容赦ください)

ナオコ

作者より : 当時の取材にあたっては多くの方々にご協力いただきました。とくに広島デリヘル・風俗求人|いちごナビの担当者様には、突然の依頼だったにも関わらずデリヘルをはじめとして様々な風俗店で働く女性たちをご紹介していただきました。そのご助力に深くお礼を申し上げます。

 

 

【デリバリーヘルス・タンザナイト『サヤカ』嬢】

サヤカ嬢の印象は、良くも悪くも『少し影のあるお嬢さん』というものだった。
女性の私が言うのは気が引けるが、男性受けはさほど良くないかもしれない。
何故なら彼女の腕には無数の傷があったからである。そして、まだ新しい傷も残っていた。その傷にはまだ新しい・・・血の香りさえするような生々しい血液が固まっており、その異様さは彼女の儚い笑顔にもあらわれていた。
『リストカット』『アームカット』と呼ばれる自傷行為を彼女はやめられないと言う。

(サヤカ嬢)
「死にたいとか、特にそんな感情はないです。ただ自分の存在が嫌になったとき、自分の血液が流れるのを見ると安心するんですよね。ナオコさんは自分の存在を意味なく否定してしまったことありませんか?それと同じことだと思います(笑)」

私は唖然とした。
はじめてのデリヘル取材早々、生命に関わるようなことを目の当たりにするとは思っていなかった。
そして、私は人生ではじめて『自傷癖のある人間』に出会ったのだ。
生まれて40数年、自分の生死を深刻に考えたことをなかった私。自傷行為はネットなどで見たこともあったが、失礼ながら本当にそのような方がいたとは、自身を取り巻く環境の甘さゆえか・・・現実世界でリアルに出会うことはないと思っていた。
しかも、今目の前にしている女性は私の年齢の半分しか生きていない・・・まだまだ若い、未来あるお嬢さん。

(私)
「痛くないの?」
(サヤカ嬢)
「切ってる最中はさほど痛くないです。後になってヒリヒリ・ジンジンと痛むことはあるけどね」
(私)
「お客さんに指摘されたことは?」
(サヤカ嬢)
「大抵指摘されません。見て見ぬふりをしてくますが、後につながること(リピーター客)はあまりないですね・・・指名もほとんど写真指名です。この傷のせいだってわかっているんですが・・・今さら傷の一本・二本。増えようと減ろうと関係ないんですよ」

サヤカ嬢は笑っていたが、目は笑っていなかった。
顔つきのせいなのか・・・笑っていても目が据わっている。そんな表情をするサヤカ嬢との初対面・・・私は気になっていたのだ。
まるで、自分に起きる全てのことを諦めているような・・・そういう表情。
女優さんでもない限り、この空気感を出すハタチの女性はいないかもしれない。

(私)
「どうして風俗で働こうかと思ったの?」
(サヤカ嬢)
「ははっ・・・私という人材を欲しいと思ってくれるのは風俗以外ないですよ(笑)」

私はサヤカ嬢に「これ以上聞くのは喜ばしいことではないのか?」と質問したところサヤカ嬢の了承を得たので、引き続き取材を進めていきたい。

 

【サヤカ嬢の仕事】

サヤカ嬢は、デリヘル嬢を始めてまだ2ヶ月。
週に5回ほど出ている。

(サヤカ嬢)
「私は指名客がつかないから毎日出ないとお給料にならないんですよね。休まずに出勤しなければ生活できない月もあります」

デリヘル・・・いや、風俗といえば高収入のイメージしかないが、どういうことか?
オーナーに話を聞いてみた。

(オーナー)
「キャストのお給料は時給や日給制ではありません。お客様一人の接客につき、キャストのバック料金を支払うシステムになっています。そのバック料は高額なのですが、人気のないキャスト・やる気のないキャストは、やはり他の実力もあり頑張っているキャストに比べると、どうしても差がついてしまいます。指名だけで生活できるキャストもいますが、新人さんのように、まだ指名が少ないキャストはフリーのお客様から指名をいただけるように女性としての魅力・人間としての魅力を最大限に高める必要があります。そうしないと、いくら出勤してもフリーのお客様の人数が少なかった場合、お仕事も減るわけですから当然キャストのお給料も低くなっていくというわけです」

デリバリーヘルスに勤めているからといって、必ずしも高収入とは限らない。
その日、サヤカさんが一人のお客様を接待したとして、バック分の1万円がお給料だとしよう。
「時給一万円」
同じ女性として羨ましいくらいである。
しかし、サヤカさんが、朝から晩まで出勤していたとして、事務所で待機していたとし、結局その日はお仕事に入れず帰宅すると「日給1万円」になってしまうのだ。
待機している時間(拘束時間)を考えると、時給的にはコンビニ店員よりほんの少し高いくらいではないだろうか。

(私)
「サヤカさんは、このままのスタンスでこれからもお仕事をするの?」
(サヤカ嬢)
「うーん。もうキャラチェンできないとこまできてますからね(笑)こんな酷い腕、裸になったらすぐお客様にバレますし、事故でできた傷・・・という言い訳は苦しいでしょうし」
(私)
「傷をこれ以上減らそうとは考えたことありますか?」
(サヤカ嬢)
「うーん。ない(笑)仕事でのストレスもあって帰宅した後は必ず傷増えるし。傷を増やさなきゃ仕事も続けていけない・・・そう思いますよ」

サヤカ嬢は、基本的に夏でも長袖を着ている。
そして、初対面のお客様に挨拶した時は「若いね!」と喜ばれる。
しかし、バスルームなど、明るいところで脱ぐと・・・傷がバレてしまい、途端にお客さんの態度が変わるそうだ。

 

【サヤカ嬢の理由】

(サヤカ嬢)
「9割のお客さんが私の傷について気付かないふりをします。申し訳ないと思うのか、面倒くさくて怖い女だと思うのか・・・まあ後者でしょうね(笑)」

サヤカ嬢を見るお客さんの視線は冷たい。
態度までも冷たくなっていく。
言葉が減ったり、笑顔がなくなったり。
そして、サヤカ嬢が明るく接客すればするほど異常な人に見えて距離を置かれる。
逆に、あまりはしゃがないようにすればお客さんは「この後、また自殺未遂でもするのでは・・・」とあからさまに警戒心を持つという。

(サヤカ嬢)
「だから私は変に自分のキャラを作るのをやめました。このままでいこうって。でも、やっぱり自業自得とはいえ、悲しいときもあります。そんな時はトイレに行って強く腕の皮膚を噛んだりします。じゃないと仕事できないですから」

サヤカさんが、そこまでしてデリヘルで働く理由は、やはり生活費。
自傷癖により、常に貧血状態のサヤカさんは、一般職が体力的にも健康的にも無理なのだ。
デリヘルだったら短時間で稼ぐことができる。
待機時間は基本的に自由なので、飲み物やお菓子つきでパソコン操作をしながら遊んでいられるのが助かるそう。

(私)
「帰ったら待っててくれる人はいるの?」
(サヤカ嬢)
「両親と妹と一緒に住んでるから、家族はいるかな」

私は安堵した。
私から見たサヤカさんは、お客さんのイメージと同じく「いつか自殺してしまうのではないか・・・」というものであった。それほどまでに、彼女はもろく見えたのだ。
サヤカさんを待っている家族がいるということだけで、他人ながら安心してしまう。
サヤカさんの傷は血がにじみ、ミミズ腫れになっている新しいものから、もう白くなっているものまである。
過去の傷だけではないということが、周囲を心配させる大きな要因と言えるだろう。
デリヘル利用者の中には、家族や知人に秘密で・・・と楽しむ方が大半だろう。
事件に巻き込まれたくないのが本音であることは言うまでもない。

(私)
「サヤカさん、死にたくはないのよね?自殺なんてしないよね?」
私の問いかけに、サヤカ嬢はコソっと私に耳打ちした。

(サヤカ嬢)
「オーナーに、これ以上傷が増えたら面倒見れないと言われているの・・・。ここをクビになったとき、私の終わりは近いかもね・・・(笑)」

自分の存在を否定しながら、自分を売るこの仕事をサヤカさんは、どう思っているのだろう。
サヤカさんはまだ20歳、まだまだ未来につながるような出来事が待っていそうな気がする。
しかし、それを私が言うのは偽善なのだろうか・・・。
結論は出ず、私はサヤカさんにお礼を述べると取材を終わらせた。

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